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「勉強」するってどういうこと!?


本市で考えている「まなびの姿」

 毎年4月に行われる全国学力学習状況調査、その結果が7月末に公表されました。それを受け、本校の状況を分析したお知らせ文書を、過日全校に配布しました。
 酒田市では、数値として見えるもの(様々なテストの結果や今回の調査結果のようなもの)を「見える学力」数値として表には表れない力(意欲、忍耐、尊重、創造力といった非認知能力)を「見えない学力」と名付けて、それを下のような木になぞらえて考えています。

酒田市「まなびの樹」

 目に見える葉や幹の状態はわかりますが、目には見えない根の部分がどんな状態になっているのかはわかりにくいため、これまであまり大切にされてきませんでした。しかし本来、木は、しっかりとした根があって初めて、太い幹、青々と茂る葉となります。
 現在の学習指導要領でも、「学びに向かう力、人間性など」=本市では「根の力」、「知識及び技能」=本市では「葉の力」、「思考力、判断力、表現力など」=本市では「幹の力」という3つの力をバランスよく育むことが求められています。【文科省HPに学習指導要領をわかりやすく解説した動画がありましたので、下に紹介しました。合わせてご覧ください。】

文部科学省リーフレット


「勉強」の意味

 このように、今、子ども達の学びは大きく進化していますが、変わっていく「学びの姿」を理解することは、難しいことでもあります。何しろ、私たちが経験していないことですから・・・。
 しかし、我々教員も、保護者の方々も、子ども達には将来幸せになってほしいと願っています。だからこそ、勉強して欲しいとも願います。机に向かって勉強している姿が見えないと「勉強しなさい!」とつい言ってしまいがちです。

 「勉強」の言葉の意味は、めをいること。「勉め(つとめ)」とは、精を出して仕事をすること、努力して事を行うこと、無理・我慢をして行うこと。「強いる(しいる)」とは、相手の意向を無視して強制すること。つまり、子どもの気持ちを考えることなく、無理やりやらせる学習が勉強だということです。

 そんな「勉強」を私たちは大事だと思ってきました。なぜなら、小学校・中学校・高校・人によっては大学で「勉強」したその成績(評価)で、その後の就職先、ひいては人生が決まってきたからです。いい高校、いい大学、いい企業に入ることが、幸せな人生になる・・・そんな思いをもっている人が多くいたのではないでしょうか。

 その価値観は、明治以降の近代化を推し進め、戦後復興の原動力となり、高度経済成長をもたらしてくれました。『24時間働けますか?』(リゲイン)とか『亭主元気で留守がいい!』(タンスにゴン)といったテレビCMは、与えられた課題(仕事)を黙々と我慢してやり続けることができる人材の育成を後押ししました。そんな人材が必要だったからこそ、学校でも、「勉強」ができる人材を育てることに重きが置かれていました。『受験競争』という言葉も生まれ、受験で勝ち抜くために勉強することがすべての子ども達に求められたのです。

時代の変化

 そのような人材が必要だった時代、日本の経済はとても優秀でした。下のあるのは世界時価総額ランキング。1989年当時(左側)、世界のトップ1~5を日本企業が占めていますし、トップ50に30社以上が入っています。しかし、2024年(右側)になると、第39位にトヨタが入っているだけです。

「STARTUPS  JOURNAL」サイトより

 経済が豊かだったあの時代、一度就職すれば定年までその生活は保障され(終身雇用)、大企業が倒産することもありませんでした。何をしても物は売れ、国自体が潤っていました。そんな日本経済を支えていたのは、猛烈に勉強して「いい就職」を成し遂げた人たちでした。

 ところが、今や右のような経済状態。終身雇用制は崩壊しつつあり、転職などの新しい働き方が生まれています。絶対に倒産しないと思われていた企業の倒産も相次ぎ、日本の経済力は著しく低下しています。

 さらに、人口減少・少子高齢化が日本経済の悪化に追い打ちをかけています。労働力人口の減少は、経済規模の縮小を引き起こし、地域の過疎化がより進んでいます。また、社会保障制度の持続が難しくなり、高齢者1人を支える人が1960年代は10人だったのが、今後は1人で1人を支えるようになると試算されています。理想とする子供の数をもつことができなくなり、それがまた人口減少を加速させると言われているのです。

厚生労働省サイトより

 

Society5.0時代に必要なスキル

 そして、今、時代はSociety5.0に突入しています。

内閣府サイトより


内閣府サイトより

 これからの時代は、AI、IoT、イノベーション、ロボットなどが発達することによって、経済発展と社会的課題の解決が期待されています。一方、恐るべきスピードでさまざまな環境が変化し、確実性がなく、複雑で曖昧、将来の予測が困難になる状況が生まれると言われています。そんな時代のことを、それぞれの英語の頭文字を取って『VUCA』の時代と呼んでいます。

「d!s JOURNAL」サイトより

 そのような時代ですから、「勉強」によって身につけた知識や技能はすぐに古くなってしまいます。人生100年のうち、小・中・高時代の約10年ちょっとで身につけた学力では、残り80年を幸せに生きることはできません。以前学んだことはバージョンアップさせる必要がありますし、新しく学んでいくことも必要になります。学びがずっと続いていくということになるので、知識や技能をたくさん身につけることよりも、『学び方』を身につけることの方が大事になってきます。
 また、1人では到底解決できないような、誰も正解がわからないような難しい問題も出てきます。多様な他者と対話し協働しながら、課題解決にあたっていくスキルも大切になります。
 難しいことであっても、「やってみよう!」、「挑戦してみよう!」と思えたり、仲間と一緒ならやれそうだと思えたりする、そうした非認知能力(目に見えない学力=本市でいうところの「根の力」)が、これからの時代を生きていく子ども達には何より重要だということになります。


「勉強」と「学び」

 これまで「勉強」は、これからの時代を生きる子ども達にとって重要な要素ではないことをお話ししてきましたが、「学び」が要らないわけではありません。むしろ、「学び方」を学ぶという意味からも、たくさんの「学び」を体験してほしいと思っています。

 「学び」は、本来楽しくてワクワクするものです。小さい頃、「これは何?」「なんでこうなるの?」と、たくさんのやってみたい、知りたいで溢れていたことを思い出せますか? 何にでも興味があって、自分で遊びを工夫し、おもしろいことに好奇心をかき立てられ、目をキラキラと輝かせていたあの頃。遊びの中にはたくさんの「学び」が隠れています。つまり、世の中にあるすべてのことは、「学び」になり得るということなのです。
 
 たとえば、おいしいコーヒーの淹れ方を探るのも「学び」です。津波が来たらどうやって命を守るかを考えることも「学び」です。自然体験に出かけることも「学び」ですし、料理を作ってみることも「学び」です。
 「博士ちゃん」というテレビ番組がありますが、あの番組に出てくる子ども達の姿からは、これからの時代を創り出してくれる期待感を感じます。

 ところが、「勉強」となった途端、学校で扱う教科の内容に限定されてしまいます。そして、どの教科もまんべんなく平均的にできることを求められます。学校では、全員が同じペースで一律に、一斉授業というスタイルで「勉強」させられます。人にはそれぞれ向き、不向きもあるし、理解のスピードもそれぞれなのに・・・。さらに、家に帰っても「勉強」が強制され、その優劣でその子の価値づけがされてしまいます。学校で扱う教科の内容以外にもたくさんの学びがあり、もしかしたら、別の内容でなら、他を抜きんでる才能をもっているかもしれないのに、そうした「学び」が評価されることは、これまではあまりありませんでした。

 そんな状況と時代の変化に合わせて、大学入試制度にも変化が表れています。従来の入試は、ペーパーテストのみで行われていましたが、それでは、その人がどんな人なのか、どんな考え方をしていて、これからどんな生き方をしていきたいのかといったことはわかりません。
 受験者が、これからの時代を生きていける「学び方」を身につけていて、他と協働できる人なのかどうかを総合的に判断するために、ここ数年は「総合選抜型入試」が多くの大学で採用されるようになりました。単なるペーパーテストだけでは見ることができない、その人の学びへの意欲や人間性、思考力・判断力・表現力などを、論文や面接、レポートやプレゼンなどでみるという方法です。
 大学入試改革に合わせて、高校入試にも変化が見られます。本県でも、来年度の高校入試から、前期・後期2回の受験機会が与えられることになり、前期の試験内容は、▽面接▽作文▽発表▽実技などの中から、高校が1つから3つ選んで実施することになります。試験内容に特色が出るので、学校側は「こういう生徒に来てほしい」という方針に沿った生徒を集めやすくなりますし、それぞれの学校が特色を明確にしてくれることになるので、受験生にとっても自分に合う学校を選びやすくなるでしょう。

 大事なのは、自分にはどんな得意なこと、好きなことがあって、それを生かしてどんな人生を生きていきたいかというビジョンがはっきりしていることです。
 教科で学んだことを通して、その教科の見方・考え方を使うと、こんなふうに学べるんだ!という「学び方」を知り、その教科の楽しさを味わうことで、新しいことに出会ってもどんどん学びを続けることができる、そんな人になってほしいと思っています。
 そして、教科の内容に限らず、自分が知りたい、やってみたいということにどんどん挑戦して、学ぶことの楽しさを味わえる人になってくれることを願って、子ども達の支援をしていきたいと思っています。 

 強制されて行う「勉強」から、自分の人生に必要な「学び」へ・・・。大量の知識を与えるのではなく、予測不能な社会でも、自分の判断で知識を取得し使うことができる力を育むことが大切です。その学びの土台となる「根の力」(非認知能力)の向上をめざして、本校でも、日々の教育活動に取り組んでいきたいと思っています。


我慢ができない子、耐性のない子になるのでは!?

 「勉め(つとめ)を強いる(しいる)」、つまり、つらいことを我慢してやる経験がないまま育ってしまったら、将来、つらいこと・苦しいことに出会った時、それを乗り越えることができないのでは!? だから、我慢して勉強することも必要なのでは!? そんな言葉を聞くことがあります。勉強に限らず、「つらいからこそ意味がある」という考え方が、日本には昔から存在しています。古い根性論みたいなものが染みついている感じでしょうか。しかし、そういう考え方でやれる人は、ごく一握りのとても辛抱強い人だけです。それはそれですばらしいことですが、多くの子どもにはあてはまりません。

 たしかに、適応力の高い子どもは学業成績が向上し、将来的に健康で幸福な生活を送る可能性が高いということが、各種の研究で明らかになっており、ストレスに対する耐性が高い子どもは、困難な状況に出会ってもそれに適応する力があったり、たとえ失敗しても立ち直る回復力が高かったりします。また、成果が出なくても継続できる忍耐力があるので、自分で解決策を見つけ出すことができるそうです。しかし、そうした力は、我慢することをたくさん経験したから身につくものではないということも研究から明らかになっているそうです。

 「ビリギャル」で有名になった小林さやかさんは、朝日新聞「Thinkキャンパス」の中で、次のように語っています。
 ~大事なのは、「嫌だけど我慢強くやらせる」ことじゃなくて、本人がやりたいと感じていることです。それを無視して、親が「勉強させたい」と言うのは、エンジンのかかっていない車を後ろから無理やり押すようなものです。だから、親御さんや周りの大人には、その子がエンジンをかけるための適切な言葉をかけたり、環境を整えたりすることに意識を向けてもらえたらと思います。成功体験を重ねることで自信がついて、子どもたちはちゃんと自分で走れるようになるんです。~【記事の全文は、以下をご覧ください】


我慢より「GRIT」

 このように、最近の日本でも「我慢」する力をつけるのではなく、「GRIT」(やり抜く力)をつけようと言われるようになってきました。
 「GRIT」とは・・・
 Guts(度胸):困難なことに立ち向かう
 Resilience(復元力):失敗しても諦めずに続ける
 Initiative(自発性):自分で目標を見据える
 Tenacity(執念):最後までやり遂げる

のそれぞれの頭文字を取った言葉で、困難に遭ってもくじけない闘志、気概や気骨などの意味を表す英語で、社会的に成功している方たちが共通して持つ心理特性として、近年注目を集めている言葉です。

 「GRIT」を高める方法は・・・
①プロセスを褒める
 子どもが何かしていることに対して、その結果を褒めるのではなくプロセス(過程)を褒めること。「90点取ったの、すごいね!」は結果です。「毎日頑張っていたね」はプロセスです。たとえ、50点だったとしても、そこまでのプロセスの中で褒めることを見つけてそこを認めてあげること。
そういう言葉をかけることで、子どもは挑戦を恐れずに前向きに取り組む姿勢を身につけることができるそうです。

②子どもに決めさせる
 
自分で考えて行動する機会を与えることで、子どもは自己管理能力を身につけます。大人の言うことを指示通りこなしているだけでは、自分で考えることがありませんし、「できた!」という感覚ももてません。自分で考えて行動して成功した時にはじめて、「自分はできる」という自己肯定感・自己効力感をもつことができます。そういう体験を繰り返していくことで、自分に自信を持ち、「自分ならやれる!」という信念を持てるようになるのだそうです。

③失敗を許せる環境をつくる
 ストレス耐性は、困難な状況に直面し、それを乗り越える経験を積むことで育ちますが、「我慢」しただけでは、乗り越えたことにはなりません。我慢していても、困難な状況が解決されることはないからです。大事なのは、大変な状況でも、どうしたらそこを打破できるか、自分で考え、時には他者の力を借りながら、解決の道を探ろうとできることです。困難な状況だからこそ、失敗もつきものです。そんな失敗を恐れることなく、難しいことでもチャレンジを繰り返すことで(トライ&エラー)、子どもは自分に対して自信を持ち、難しい場面に対してもポジティブに立ち向かえる力を身につけることができるのです。そのためにも、失敗ができる環境をつくっておくことが大事だということになります。

終わりに・・・

 長い文章を最後までご覧いただき、ありがとうございました。今年は、昭和でいうと昭和99年だそうです。昭和から平成、そして、令和と時代は大きく変化してきました。そして、そのスピードは速まる一方です。私たち大人が経験したことのないコトやモノ、新しい価値観や考え方がどんどん生まれています。過去の経験だけでは到底太刀打ちできない時代になっているからこそ、我々大人が、学び直し(バージョンアップ)して、目の前の子ども達の未来を輝くものにしていく必要があると思っています。子ども達に関わる大人の責任として、子ども達の今と未来を幸せにするために・・・。
【下に紹介した「note」記事もぜひご覧ください】